「私の釣魚大全」開高健

Category : blog
Date : August 16, 2020

 

今年も青山ブックセンター本店にて、9月30日まで開催されている「この夏、おすすめの一冊」というイベントにて、選書を担当しました。今年のおすすめの一冊は、開高健さんが書いた「私の釣魚大全」。当初は他の本を考えていたのですが、今年の夏は、昨年にも増して猛暑が続いていますが、コロナのせいで、これまでの平和ないつもの夏とはまるで違う夏。
この話は、先日立沢さんのpodcast「無芸者mugeisha」でも話したのですが、実は2年前にぼくは盛岡で、石澤さんという有名な職人さんの手による極上のテンカラ竿を手に入れたのです。昔から和竿といえば、海の庄内、川の盛岡と呼ばれるほどのもの。しかも石澤さん、なんと川で手ほどきをして下さるとのこと。ところが、その後足が痛くなったり、忙しさにかまけて、未だにご一緒出来ていないのです。もちろん、そのことはずっと気になっていて、それこそ今すぐにでも石澤さんに釣りに連れて行ってもらいたいなあと思っています。それでも今はなんとなくそうも行かなくて、その上普段のように読書らしい読書も出来なくて、相変わらず釣りの本ばかり読んでいます。

 

 

この本以外にも、本当にたくさんの釣りの本を短い期間で読みまくったのですが、その中で今回おすすめする開高健さんが書いた「私の釣魚大全」は、ぼくの手元にある釣りの本の中でも最も古くから読んでいる本。おそらく、中学生か高校1年生の時に購入したもの。開高健さんの釣りの本としては、他にも「オーパ!オーパ!」であるとか、「フィッシュオン」であるとか有名な著書はたくさんあるのですが、ぼくにとってはやはり今でもこの「私の釣魚大全」が一番大好きで、ついつい手が伸びる一冊。おそらくその理由のひとつが、この本が書かれた時期に大きく関係しているかもしれません。それというのも、ぼくも大好きな純文学作品「輝ける闇」「夏の闇」そして遺作となった「花終わる闇」の、いわゆる「闇シリーズ三部作」と呼ばれる「輝ける闇」と「夏の闇」の間に「私の釣魚大全」は書かれています。そしてこの本は、部屋に籠もって原稿を書く毎日にうんざりしていた開高健さんの元にやって来た「旅」という雑誌における釣り紀行の連載をまとめたもの。そのせいか、その文章は若き日の開高健さんが、とても生き生きと釣りを楽しみながら、時に徐々に失われていく自然に対して、その高度成長の時代を憂いながら、その眼差しがとにかくあたたかく、真っ直ぐなところが、もしかしたらこの本の最大の魅力なのかもしれません。そして、この今という時間の中で、ぼくたちが大切にしなくてはいけないであろうことのヒントがたくさん記されているようにも感じています。だから今こそ、この本を。

今はまだ、この前代未聞の「コロナ禍」のおかげで、普通に楽しく釣りに出かけられる感じではありませんが、仕方がないので、来年の渓流の新緑がきれいな頃に出かけられることを願って、それまではまた、釣りの本でも読んで、作戦を練ることにしましょうか。


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