Alfred Cortot

Category : blog
Date : September 30, 2018

 

今回のパリは、最初からとてもコルトーな気分で、数年前にコルトーとも交流があったフランスの音楽評論家が書いた、コルトーについての書籍と共に渡仏。

1987年にカザルスホールが出来た時、ぼくは何人かの音楽家のポートレイトを撮影することになって、その時に初めてパブロ・カザルスの音楽を知り、そこからぼくのクラシック音楽は始まりました。そんなカザルスを中心とした「カザルストリオ」としてヴァイオリンのジャック・ティボーと共にピアノを弾いていたのが、今回お話しするアルフレッッド・コルトー。そしてその時から、その独特の世界観を持った演奏に魅了され続け、今でも大好きなピアニストの一人。実はここのところ次回お話ししようと思っているリパッティであるとか、クララ・ハスキルであるとか、彼のお弟子さんたちのレコードをよく聴くようになっていて、それに引っ張られるように、改めてコルトーの音楽の魅力を感じています。
そんなコルトーは、1952年に彼が70歳の時に一度来日していて、その時に下関の川棚温泉に滞在した折、その地を「ここで暮らしたい」というほどに気に入ったとのことなのです。そのことを川棚の町の人々もとても喜んで、記念碑を作ることになった折、その銘文をコルトー自らが起草したのですが、その言葉が「夢の島の隠者」というのも、なんともコルトーらしい。今では、川棚温泉から見える小さな無人島は「弧留島(こるとう)」と名付けられ、隈研吾氏設計のコンサートホールも出来て、毎年「コルトー音楽祭」が開催されています。これは是非、行ってみたいなあ。
今までぼくは、そんなコルトーの録音をアナログ盤のLPで聴いていたのですが、コルトーがすごくいい演奏をしている録音の多くは1930年代のものが多いので、以前からいつかオリジナルのSP盤で聴いてみたいなあと思っていました。正確に言うと、それこそ一度、蓄音機でコルトーのレコードを聴いたことがあったのですが、それはそれはすばらしいものでした。
そして遂に、最近電気蓄音機のようなものを手に入れたこともあって、神田のレコード屋さんで、初めてコルトーが弾くショパンのSP盤を手に入れました。するとどうでしょう、けっしていい音というわけではないけれど、不思議とその音の中には、音の粒子とでもいうのであろうか、それをはっきりと感じることが出来て、なんとも実体としての存在感がLP以上に。それはまるで写真において、いくらデジタルの解像度が上がろうとも、あの銀塩写真や湿板写真のような実体感のある写真とは比べものにならないような存在感があるように、その音に不思議と一気に耳が持っていかれる。そんな力があるのです。

そして今回のパリでは、なんと前回ご紹介したレコードコレクターのフランス人コーディネーターより、あの名盤として誉れ高い1933年録音の「ショパン 24のプレリュード」のSP盤全曲セットを譲ってもらいました。するとやはりここでも、今までLPで聴いていたものとはまるで違うコルトーのとても知的でいて、それでいて他の誰よりもあたたかい哀愁溢れるショパンの音楽を感じることが出来ました。そしてぼくをショパンよりもより大きく驚かせてくれたのは、彼が「これはおまけだよ」とプレゼントしてくれたドビュッシーのSP盤における演奏でした。

 

 

これはもう、まるでジャズと言ってしまってもいいようななんともモダンな演奏で、やはり今更ながらコルトーはすごいピアニストです。そんなコルトーが特別なピアニストであったことは、今となっては否定する人は誰一人としていないでしょうが、今回あらためて、彼の生涯を振り返るように伝記のような本を読んでみると、特に晩年はけっしてすべての人々に受け入れられていたわけではなかったようです。もしかしたら、そんな時に日本の田舎の光景の中に、彼なりの理想の日常のようなものを見つけることが出来たのかもしれませんね。そして、それが日本であったことが、個人的にはとてもうれしく思います。
(その来日時に録音された演奏「コルトー・イン・ジャパン1952」も、個人的には大好きです。)

前回は「ジャンゴ・ラインハルト」のお話をしましたが、そんなジャンゴとコルトーは、同じ時期に、同じ街パリで暮らし、共にあの忌々しい第二次大戦の最中で、まさに渦中の人として、おそらく大いなる悲しみを胸に抱きながら、世間的には二人とも様々な物議を醸し出しています。
これはあくまでもぼくの勝手な想像ですが、たとえ二人の間に具体的な親交がなかったとしても、おそらく必ずと言っていいほどお互いに、お互いの音楽を耳にしていたでしょうし、意識しあっていたことは間違いないのではないでしょうか。そして、もしかしたらお互いの演奏会にも足を運んでいたかもしれませんね。そう、きっとそうに決まっている。

そんなことを考えながら歩いたパリの街は、やはりちょっとすてきでした。

 


at Paris

 


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